その日、数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程に響き渡ったチャイムの音の後、
「ご、ご注文のピザ、お届けに上がりましたー!」
 と、聞き覚えのない声がして、ローガンは片眉を釣り上げた。
 覚えもない知らせに扉を開けると、あからさまに困惑顔で目を泳がせている配達員が立っていた。
 そして、その配達員の肩を抱いて、ローガンに向けてひらひらと手を振っているのは、やはり、見慣れた赤いスーツの異様な風体の男、デッドプールだ。彼にとっては、不本意ながら、友人のウェイドである。
「……頼んでないが?」
 ウェイドを一瞥して、ローガンは配達員の方に視線を移すと、確認のためそう告げた。しかし、それに答えたのは、ウェイドのほうだ。
「そだね。頼んだのオレだもーん。サンキュー! ご苦労さま!」
 配達員に金を握らせ、ピザの箱と交換すると、ウェイドはローガンへ向き直って、一つ投げキスを送る。
「ハァイ! マイスイートハート、寂しかった?」
 マスク越しでも、それが満面の笑みだとわかった。そして、ローガンが呆気に取られたその一瞬の隙を狙って、お世辞にも小さいとは言えない身体をねじ込んでくる。勿論、片手には受け取ったばかりの二つもあるピザの箱を持って。
 ローガン宅の玄関を突破したウェイドはそのまま、勝手知ったる他人の家を歩き回る。リビングの中央に据えたテーブルにピザの箱を下ろすと、背後のキッチンの冷蔵庫まで勝手に開け、コーラを取り出した。ちなみにそれは、ローラのものだ。
 ローガンが注意するべく口を開く前に、瓶の栓は抜かれて取り払われる。おそらく、今外出中のローラがそれを知ったら、彼はこの後八つ裂きの憂き目に遭う合うだろう。しかし、それをあっさりと見捨てて、ローガンは心の中で手を合わせておくに留めた。
 そんなことは露知らず、ウェイドは赤いマスクの口元だけを鼻まで引っ張り上げ、コーラをラッパ飲みしながら、
「あー、疲れた! ほんっとに何時間居留守使う気だよ! 喉もカラカラ! 足も棒! 危うく玄関先に住んじゃうところだった! ひょっとして放置プレイが趣味!?」
 と、瓶の蓋をローガンに向かって投げつけた。ローガンは半身をずらしてそれを躱すと、蓋はその後方の壁に刺さって派手な音を立てる。
 そんなものは歯牙に掛けず、ウェイドは文句を垂れ流しながら、テーブルの側のソファに腰を下ろした。腰を下ろした、というよりは、ほぼ横になるが正しい。凡そ他人の家に居るとは思えないだらしない座り方に、ローガンはうんざりと肩を落とす。
「帰れ」
「ヤダ! ローガンがなんかあったら来ていいって言ったじゃん!」
「じゃあ念の為に訊くが、何があったんだ?」
「やだ……、忘れちゃったの? ひょっとして、世情に疎いタイプ? 新聞ちゃんと見ろよ。今日のサッカーの試合は必見」
 ウェイドはそう言って、テーブルの上のリモコンを取ると勝手にテレビを点けた。テレビにはスタジアムと、サッカーのコートが映し出されている。ウェイドの目当ての試合はこれから始まるようだ。
「やっぱスポーツ観戦にはピザだよねっ」
 そしてまるでクリスマスのプレゼントを開ける子供のように、声を弾ませてピザの箱を開けだした。一枚目の箱にはパイナップルとオリーブがたっぷり乗ったピザが入っている。それをみて歓声を上げ、手まで叩いているウェイドを、ローガンは冷ややかに見下ろした。
「自分の家でやれ」
「やーだぁ! オーストラリアとカナダの試合よ!? 絶対ここで見るべきって朝から決めてたの! 絶対カナダが勝つんだからァ!」
「意味がわからん」
 実際のところ、ローガンにとってウェイドの奇行は既に馴染みのあるものだったし、謎のこだわりを見せて何かと共有したがる悪癖も、諦めつつある。
 あっという間にピザを頬張って頬を膨らませたウェイドは、ローガンを見上げて小首を傾げる。
「食べないの?」
 その様はまるで子供だ。
 うなだれて、肺が空になるほど深い溜息をついたローガンは、観念してウェイドの隣に腰を下ろした。
「……パインの乗ってない奴」
「オーケー、戦争だ。って言いたいところだけど、俺ちゃんは優しいから、ローガンがそう言うと思ってちゃんと注文しといたよ。ペパロニとピーマンとマッシュルームとオリーブとチャイブの奴。めっちゃローガン想い。俺ちゃんの愛に感激した?」
「いいから寄越せ」
「んもう、せっかちなんだからっ!」
 彼は重なった箱を避けて、二つ目を箱ごと押し付ける。ローガンはそれを膝の上に置いてから開くと、本当にウェイドが言った通りのピザが出てきた。
 いつだったか、同様にウェイドがピザを勝手に注文した際、届いた物がパイナップル尽くしであったことに、ローラと揃って彼に文句をつけたのを、しっかりと覚えているようだった。
 ウェイドの視線を鬱陶しく感じながらも、ピザは悪くないと思い直し、黙って口に運ぶ。すると、すぐさまコーラの瓶が差し出された。
「ピザにはコーラだよね。ビールもいいけど」
「…………」
「どったの? コーラ嫌いだっけ?」
 別に嫌いではない。ローラが買っていた飲み物でなければ。などと、口にしかけたが、ウェイドが差し出したそれを引っ込める気配がないので、彼はほんの少しの間をおいて、それを受け取った。
 脳裏にちらつく激怒するであろう少女の面影を振り払いながら、隣からの圧に負け、ローガンは仕方無しに瓶に口をつけた。すると、ウェイドは満足そうにしてソファに身を沈め、再びピザを頬張ってサッカーの中継に野次を飛ばしだす。
 母国の試合、と言われても、国に愛着があるわけではない彼は、画面に映し出される試合を見るともなしに眺めていた。
「オーストラリアの選手誰が推し?」
「カナダじゃなく、か?」
「えっ、カナダ応援してんの……? オーストラリアは?」
「縁もゆかりも無いが」
「ヒューの顔してるのに?」
 さも当然のように出る他人の名前に、ローガンは眉を寄せた。ウェイドは度々、ローガンに対して身に覚えのない誰かの話を当てはめたがる悪癖もあった。多様な悪癖を持つ難のある男と、度々こうして顔を合わせる事になりつつある現状を嘆き出す前に、ローガンは思考を切り替える。
「お前はよく俺を誰かと混同するが、そういう病気なのか」
「嗚呼、無情……。ヒューを知らないなんて、可哀想に。クッソ歌上手で、ジャン・バルジャンとっても良かったのに……。クズリちゃんも歌ってみたらいいんじゃない? ブロードウェイに引っ張りだこ間違いなしよ? そしたらそのパッツパツのジーンズのベルトに俺がドル札挟んであげる」
「これ以上訳の分からない話をするなら帰れ。そもそも、サッカー観戦なら彼女とすればいいだろう」
 ローガンが嘆息と共に何気なく吐き出した言葉を最後に、ぴたりとウェイドが動きを止めた。
 室内に中継の音ばかりが響いて暫し経ち、ローガンが訝しんで隣に視線を移す。彼はテレビのほうを向いた儘、微動だにしていない。ウェイドが静かなのは好都合ではあったのだが、純粋な疑問が浮かんだため、ローガンは口を開いた。
「まさか、まだよりを戻してなかったのか?」
「うるっさい! まだ心の準備中なの!」
 ウェイドも何を問われるのかわかっていたのだろう。ローガンが疑問を口にした刹那、ソファの上から跳ね上がるようにして身を乗り出し、ローガンを睨め付けた。
 目だけはマスク越しだが必死の形相であることはわかる。
 その必死さ故、ローガンは思わず嗤ってしまった。
「ヘタレめ」
「ハァー!? 脳筋にはわっかんないだろうけど、こういうのは入念なプランと準備が……準備が……」
 怒りか、動揺か、ウェイドはわなわなと震える荒れた唇を引き結んでから、勢いをつけて、捲り上げていたマスクをきっちりと引き下ろした。
 それを見て危機感を覚え、ローガンが身を引くよりも、ウェイドが動くほうが早かった。
「ねえええええ! ウルヴィー!? 俺ちゃんどうしたらいいと思うゥ!?」
 情けない泣き声に似た声音と共に、ウェイドが縋り付いてくる。膝の上にあったピザの箱だけは何とか待避させたが、それまでだった。彼が逃げる機会を逸してしまったのを、これ幸いとばかりに、ローガンの肩口に顔を埋めたウェイドは駄々を捏ねる子どものように擦り寄ってくる。
「よせ、やめろ。くっつくな」
「ヴァネッサはほんっとにイイ女だからさァ!? そりゃあモブだってほっとかないワケ! 本編にぜんっぜん出てこない名前だけのモブよか、俺ちゃんのほうがカッコいいよねェ!? そうだって言ってよ、ハニー!」
「誰がハニーだ。とりあえず、離れろ」
「イヤ! 慰めて! 励まして! なんか元気のでる言葉で! じゃないと真っ二つにされたって離れないんだからァ!!」
「……わかった。わかったから、離れろ」
 これは紛れもなく好奇心に負けた結果の、身から出た錆であった。面倒くさいことになったと後悔しつつも、彼は縋り付いてくる背中を叩いた。
 すると、ウェイドは顔を上げたが、それでもローガンが望んだ距離よりもかなり至近距離で彼を覗き込むと、顎髭のあたりを指でなぞる。
「ホント? ダーリン……。ヒュー・ジャックマンよりも、とびっきりいい男だって言って?」
 勿論、そのふざけた手をはたき落として、ローガンは溜息を吐いた。
「……そうだな、お前は」
「ウンウン」
 マスク越しのはずだが、その大仰な挙動故か、ウェイドは表情豊かだ。あからさまに期待を目一杯詰め込んで、世にも珍しいローガンの褒め言葉を待っていた。
「無神経で、不愉快で、利己的で、口喧しい上に嘘つきで」
「オイ、アナグマ野郎。慰めるって意味わかってる?」
 しかし、出てくるのは暴言の羅列であり、すぐにウェイドはローガンの襟元を掴み上げる。しかも、ローガンはそれを意に介した様子もなく続けた。
「俺が出会った中で一番頭がイカれた稀に見るろくでなしだが」
「もしもし? ねえ、ちょっと、聞いてる? なんでなの? ひょっとして俺ちゃんのこと嫌いなのォ?」
 がっくりと肩を落として落ち込み始めたウェイドを見て、彼は失笑する。
 何故などと問いたいのは、ローガンの方だった。
 ウェイドのことを思い出すとき、まず真っ先に良いことなど浮かびはしない。悪い言葉で喩えたほうが圧倒的にしっくり来るはずなのだが、それでも、ローガンは彼を嫌いにはなれなかった。
 そうして最後にはいつも思い出す。
 ウェイドが抱えた狭い世界のために、彼自身が必死になる姿を。なりふり構わずに彼が手繰り寄せた結果、此処に居ることになった自分自身のことも。
「……だが、良いところもある」
 そして、薄暗い場所で終わりを待っていた頃の事が過る。
 ずっと、長い間、出口のないトンネルに居るようだった。
 反響する悲鳴、助けを求める声、何故と責める己の声さえ聞こえた。それは今も、聞こえ続けている。
 けれども、昔より遥かにましになった。必ずしも、それは無くならなくても良いものなのだ。失ったものは戻らない。欠けたものも埋まらない。けれども、新しい誰かの手を取りたくなる瞬間が訪れることがあると、教えられた。尤も、当人にそのつもりはまるでなさそうだったが。
 長く暗いトンネルでも、隣に賑やかな彼がいたら、鬱陶しくとも退屈はしない。出口もそのうち見えるだろう。
「お前はとんでもない身勝手なバカだが、ごく稀に、それに救われる奴もいる。彼女もそれを知ってるだろう」
 あの頃、誰もローガンには期待などしていなかった。正しいあり方になるべき機会を逸し、結果、永久に失われた世界では。あの世界で選んだ選択はいつだって最低だった。けれども、最低のウルヴァリンだなどと他人から称されるほどの自身に、現れた救いの人は、相応しくて似合いだったとも言える。
 そうして、彼を救ったのは誰だったのか、音にはならない。どうせ、それを知ったらこの先永劫、言質を取ったと調子に乗るに違いないからだ。
「ねえ、確認していい?」
「……なんだ」
「それ、褒めてる?」
「どちらかと言えば……、そうだ」
「……そっか」
 掴んだままだった襟元からやっと手を離したウェイドは、ローガンの言葉を反芻するように何度か頷いたかと思うと、
「そっかー!」
 と、両手を上げて文字通り飛び上がった。彼が大仰に身体を揺するたび、ソファはぐらぐらと揺れる。
 予想通り調子に乗り始めているウェイドに、ローガンはうんざりしながら釘を刺す。
「おい、はしゃぐな」
「うっふっふ! なんか上手く行く気がしてきた! そーだ! 珍しくデレたご褒美に、俺ちゃんがちゅーしてあげよう!」
「……命が惜しくないならいいぞ」
「照れなくったっていいじゃん! 愛してるよ、スウィーティー!」
 ウェイドが両手を広げてローガンに飛びかかると、テレビから響く声援よりも大きく、ガツン、と言う鈍い音が室内に響き渡った。


***


「ただい……ま」
 その後帰宅したローラが見たものは、床に転がっているウェイドと、これ以上無く不機嫌そうな顔でソファに腰を下ろしているローガンの姿だった。
「……ウェイド、来てたの?」
 ローラがウェイドの傍らにしゃがみ込むと、ほぼ床に陥没している頭をつついた。ウェイドが微動だにしないのを見、彼女がもの言いたげな視線を投げてくるのを受け、ローガンはますます渋面を浮かべた。
「……何だ」
「ううん、なんでもない。ねえ、私のコーラ飲んだの誰?」
 彼女はテーブルの上の空き瓶二本を見逃さなかった。思わず目を逸らしたローガンの態度も、勿論同様に見逃さなかった。何もかも把握している、という様に、ローラは一つ頷く。
「わかった。弁償してね。ウェイドの分も」
「なんで俺が」
「連帯責任」
 納得いかないが、抗議する言葉を探し出す前に、ローラは手に持った荷物をソファの端に放って、ローガンの隣に腰を落ち着ける。
 そのまま、彼女は放置されていたピザに手を伸べ、一口齧った。
「ウェイドってパイナップルピザ好きだよね。最初はどうかと思ったけど、慣れちゃった」
 口に着いたピザソースを指で拭いながら、ローラはローガンを見上げる。
「今日はなんでウェイドをぶっ飛ばしたの?」
「……じゃれついてきたからだ」
「なんだ。じゃれるくらい、いいじゃない」
 まるでローガンの側に非があるかのように咎められ、ローガンは視界の端に転がっているウェイドを一瞥してから、ローラを覗き込んだ。
「前々から思っていたが、なんでお前はコイツに好意的なんだ? まさか、こういう奴が好みなのか?」
「好みとは全然違うけど、好意的なのはしょうがないじゃない?」
 ローラも床に転がっているウェイドを一瞥してから、柔和な笑みを浮かべて答える。
「だって、私があなたに会えたのはウェイドのおかげなんでしょう?」
「……お前が会いたかったのは、別の俺だろう」
「またそれ?」
 彼女は困ったような笑みに変えて、言うことを聞かない子供を諭すような語調で続けた。
「言ったでしょう? どの世界のあなたも、あなただよ。たとえ、住む世界、通ってきた道が違ったとしても。実際、本質はおんなじだった。確かにあなたより、優しい人も、強い人も、正しい人もきっとたくさんいる。もしかしたら、他の世界のあなたのほうが、優しくて、正しいかもしれない。だけど、私にとって、大事なことはそんなことじゃないの」
 この手の話題になると、彼女はいつも饒舌だ。いつもは無口で、必要なことさえ言わない癖に。
「だって虚無世界で、見捨てず、一緒に来てくれた。その時に思ったの。私にとってのヒーローは、やっぱりあなただって。作り話じゃない、子供だましのフィクションでもない。私に明日をくれた人は、あなただけなの」
 ローガンを見上げてくるローラの瞳には、いつも強い憧憬と親愛が浮かんでいる。それを向けられると、彼はいつも、ひどく場違いな気分になるのだ。
 けれども彼女を守って死んだという別の世界のローガンの姿と、自身で感じる姿との乖離を、彼自身は上手く言葉にできない。とはいえ、まるで当然のように隣に座る彼女の体験と記憶を、無下にできるほど愚かでもない。
「わからないでしょ? あなたを見つけたとき、そしてあの場に来てくれて、私がどれだけ、嬉しかったか」
 結局、彼は複雑な想いを抱えた儘、口を噤む。
 彼の葛藤を知ってか知らずか、彼女は笑みを深めた。
「第一、ウェイドに好意的なのは、私よりあなたの方でしょ」
「は?」
「私としては、大歓迎だけど」
「意味がわからん」
 顔を顰めるローガンに、彼女は眉を上げてややあって、声を上げて笑った。その快活さに、ローガンは虚を突かれて瞬く。
「あはっ、気づいてないの? だってウェイドが来るとあなたのお酒の量が、いつもよりも、ぐっと減るじゃない?」
 そうして齎される指摘に、ローガンは目を瞠った。
「……」
 ぎこちなく視線を動かした先には、いつもの蒸留酒の姿はなく、コーラの瓶が転がっている。
「ほんとうに気づいてなかったの? 減ってるよ。格段にね」
 今日一番の渋面を浮かべたローガンを見、ローラは肩を震わせて一笑すると、手に持った冷めたピザをすべて口に押し込んだ。ローラが口腔の甘塩っぱい風味を咀嚼し終わるまで、ローガンは微動だにしない。
 彼女は素知らぬ風で、追い打ちを掛ける。
「真っ暗で先が見えない場所から引き上げてくれる人の大切さは、私にもわかる。だから、ほんとは私が助けてあげられたらよかったって、ちょっとだけ悔しいかな……」
 ローラが見守る先で、ローガンが途方に暮れたようにして、ウェイドを見た。彼女より何倍も生きたはずの彼の、何処か頼りない仕草が少し可笑しく、しかし彼女は苦心しながら笑みをかみ殺す。
 彼女は尤もらしく人差し指を立て、教師のように提案した。
「一つ、教えてあげようか?」
「……なんだ」
「そういう運命の人って、選べないの。だけど、不思議と、その人で良かったって思えるものなのよ」
 驚くほど大人びた語調と共に、訳知り顔で語る彼女は、やがて悪戯をする子どものような笑みを浮かべた。 
「うるさい」
 少なくとも、ローラに指摘される程度には、ローガンにとってウェイドがどういう存在なのかは筒抜けであった。図星を指されて、文字通りローガンは頭を抱え、おざなりに手を振ってその笑みを視界から追い払う。
 うんざりとしながら、本日何度目かの長く重い溜息を吐いた。
 その視界の端のテレビ画面では、ウェイドが応援していたはずのカナダのチームがオーストリアのチームに逆転負けする場面が映っている。フィールドが割れんばかりの歓声を尻目に、母国であることも忘れ、ざまあみろ、と彼は内心で毒づいて、わずかに溜飲を下げたのであった。





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